The island is full of natural miracles and magic.
Uninhabited island off the coast of Nemuro Peninsula, Hokkaido, Japan.

Film by Okada Atsushi

 
 

深い記憶の霧の中に、霞みゆく馬たちの島。

『ロスト・ワールド』という小説があります。あのシャーロック・ホームズの冒険譚を世に送り出したサー・アーサー・コナン・ドイルが1912年に出版した作品で、アマゾン探検の旅に出た研究者の一行がその源流部で発見した不思議な台地にまつわる一編です。断崖に囲まれているために誰も足を踏み入れることができなかったその場所に主人公たちがたどり着いてみると、そこにはすでに絶滅したはずの動物たちのひそやかな楽園が広がっていた……という物語。

そんな『ロスト・ワールド』の世界を彷彿させる場所が実は現代の日本にも残されています。その名もユルリ島。北海道の東端、根室半島の沖合に佇む小さな無人島です。海上に浮かび上がる台地状の島影。緩やかな時の流れを暗示する島名。そして何よりもこの島をほかのどこにもない場所としているのが、それがただ馬と鳥と花だけの聖域として残されていることです。北辺の歴史と気候から紡ぎ出された固有の自然を守るために上陸することが厳しく制限されたこの島では、そこに人影を見ることはまずありません。その静謐で繊細な無人の島の草原に可憐な花が咲き、澄んだ鳥の声が響き、そうして何ものにも縛られることなく自由に駆ける馬の姿がまるで幻想的な映画のワンシーンのように閃きます。

言うまでもなく、『ロスト・ワールド』は稀代の作家の空想力が生み出した架空の世界でした。その幻の台地をそのまま北の海の上に置き替えたようなユルリ島という島もまた、人が立ち入ることができないという意味では、やはり幻の島、その美しさを目で見て確かめることがかなわない場所です。だからこそこのウェブサイトでは、ちょうど一編の小説を書き進めていくようにして、皆さんを現代のロスト・ワールドにご案内したいと思います。