ユルリが“幻の島”である理由


北海道本島の東端にあって、オホーツク海と太平洋とを分かつ根室半島。この半島の南側に位置する根室市の落石という地区の沖に、小さな島が浮かんでいます。島の名前はユルリ島。最も近い漁港である昆布盛の港からは、直線距離でわずかに2.6㎞。港の突堤に立てば、海面の上に薄い円盤を置いたような、横に長く平たい輪郭も印象的な島影をすぐそこに見ることができます。現在は住む人もなく、加えて北海道の天然記念物に指定されているために入島も制限されてまったくの無人島となったユルリ島ですが、かつては周囲の海で昆布を採集する漁民たちの住居や番屋が建っていました。そしてそこでの人の暮らしに欠かすことのできない存在であったのが、馬たちです。船から断崖の上の干場へと昆布を引き上げるために、また周囲を照らす灯台の燃料を運ぶためにも、ここでは馬の力が必要とされたからです。いまからおよそ半世紀前、最後の島民がユルリを後にしましたが、人に連れられて海を渡った馬たちはそのまま島に残されました。そうして、ユルリはただ馬たちだけのユートピアとなったのです。眼前に見えていながら、人が行くことはかなわぬ場所。そんな稀有な島の草原を、今日も馬たちが駆けているはずです。人はその姿を、ただ想像するしかありません。だからユルリは幻の島、そして夢の島なのです。